家庭で親が子供に昔話の本を読んでやる。この当たり前の光景が、学年が下がるに従って減る傾向があるという記事が今日付の『毎日新聞』に載っていた。

 私が幼いころ、母親に『オールカラー版世界の童話』(全30巻、小学館)を読んでもらった記憶がある。右のページは私が読み、左のページは母親が読む、というルールを決めて交代で読んだ記憶もある。

 この全集は毎月2冊ずつ母親と一緒に本屋に買いに行った。大阪市で暮らしていた時のことだから、私は幼稚園児だったことになる。

 この年になると、親がありがたいことをしてくれたと思う。

 この全集は今も私が持っていて、子供たちが幼いころに読み聞かせた。人物によって声色を変え、時には身振り手振りを加え、臨場感を持って読んでやるのだ。

 子供が3人いるから、3人がそれぞれこの全集の適齢期を迎えるたびに引っ張り出して読んでやった。下の娘に読んでやっていると、すでに全集を“卒業”している長男(当時小学6年)がわざわざ聞きに来ることがあった。

 子供にまだ聞いていないが、親に本を読んでもらうのは子供にとってけっこう心地のいい時間なのかもしれない。

 全く予想もしていなかったことに、この全集の読み聞かせによって私の脳にある記憶の小箱が開くというおまけがあった。覚えのある絵や物語に接すると、幼いころにその絵や物語から感じたことや空想したことがあれこれ思い浮かぶのだ。そのたびに「懐かしいなぁ」と見入ってしまう。

 子供への本の読み聞かせを通して、親はタイムマシンに乗って懐かしい時代に舞い戻ることができる。読み聞かせは子供のためだけにあるのではない。