小さな企業で部長職をしている友人が浮かぬ表情でやってきた。「部下の女性社員を怒らせてしまってね。取りつく島がない。これで何度目のことか」
私は友人に聞いた。その部下をお前はどう見ているんだ?
「必要な仕事仲間だよ、もちろん。だから、そいつを育てたいと思っているんだけどね」
部下を育てようという積極的な意識と意欲、余裕が上司には最低限必要である。その根底には部下に対する信頼感や善意がなくてはならない。
その昔、私が『週刊金曜日』を発行する会社で勤めていたころの話である。仕事でワープロを打っていたところ、近くにいた上司(元朝日新聞論説副主幹)が「ニシノ君のワープロを打つ音がやかましくて新聞を読めない」と怒鳴られた。確かに私がキーを打つ音は小さくない。ただしそれには理由がある。私は両手両指を駆使してキーを打つことができない。両手の人差し指だけでキーを打つのでどうしても強く叩くことになり、音が大きくなるのである。
余談ではあるがあえて記録しておくと、当時その会社の社長だった本多勝一さん(元朝日新聞記者)はこの「上司」を全面的に擁護していたものである。
話を戻そう。この上司が私に対して信頼感や善意を持っていれば、このような怒り方は絶対に出てこない。部下に対して憎しみや嫌悪があるから些細などうでもいいようなことに過剰反応するのである。
「私は部下に対して憎しみや悪意は持っていないんだがなぁ。そもそも彼女を憎んだり悪意を抱いたりする理由がない。仕事仲間なんだから」。そう言って友人は笑う。
人の感情は計り知れないものがある。友人の部下の真意は私にも分からない。それでも、上司である友人が部下に対して憎しみや悪意などのマイナスの感情を全く抱いていないのだから、実は彼女は幸せ者である。ただ、肝心のそのことに気づかないのは不幸と言うしかない。根底に横たわる感情さえ見極めることができれば、このような行き違いは生じないはずだし誤解は氷解するはずである。ということは友人はいっそう奮起して誤解を氷解させる努力をするしかない。
「何? もっと私が努力する必要があるのか? 仕方ないなぁ。それにしても人間てのは面白い生き物だ」。友人は笑いながら帰って行った。
私は友人に聞いた。その部下をお前はどう見ているんだ?
「必要な仕事仲間だよ、もちろん。だから、そいつを育てたいと思っているんだけどね」
部下を育てようという積極的な意識と意欲、余裕が上司には最低限必要である。その根底には部下に対する信頼感や善意がなくてはならない。
その昔、私が『週刊金曜日』を発行する会社で勤めていたころの話である。仕事でワープロを打っていたところ、近くにいた上司(元朝日新聞論説副主幹)が「ニシノ君のワープロを打つ音がやかましくて新聞を読めない」と怒鳴られた。確かに私がキーを打つ音は小さくない。ただしそれには理由がある。私は両手両指を駆使してキーを打つことができない。両手の人差し指だけでキーを打つのでどうしても強く叩くことになり、音が大きくなるのである。
余談ではあるがあえて記録しておくと、当時その会社の社長だった本多勝一さん(元朝日新聞記者)はこの「上司」を全面的に擁護していたものである。
話を戻そう。この上司が私に対して信頼感や善意を持っていれば、このような怒り方は絶対に出てこない。部下に対して憎しみや嫌悪があるから些細などうでもいいようなことに過剰反応するのである。
「私は部下に対して憎しみや悪意は持っていないんだがなぁ。そもそも彼女を憎んだり悪意を抱いたりする理由がない。仕事仲間なんだから」。そう言って友人は笑う。
人の感情は計り知れないものがある。友人の部下の真意は私にも分からない。それでも、上司である友人が部下に対して憎しみや悪意などのマイナスの感情を全く抱いていないのだから、実は彼女は幸せ者である。ただ、肝心のそのことに気づかないのは不幸と言うしかない。根底に横たわる感情さえ見極めることができれば、このような行き違いは生じないはずだし誤解は氷解するはずである。ということは友人はいっそう奮起して誤解を氷解させる努力をするしかない。
「何? もっと私が努力する必要があるのか? 仕方ないなぁ。それにしても人間てのは面白い生き物だ」。友人は笑いながら帰って行った。