インターネット上に出ている言葉を分析して選挙やビジネスに活かすサービスが始まっている。ビッグデータと呼ぶそうだが、私は「ウドの大木」と呼ぶ。

 1992年夏の参院選福島選挙区の担当だった私は、事前予測を誤り、投開票日の出口調査の読みを誤った経験がある。各社そろって間違ったから仕方ない、では成長がない。

 投開票日の午後、落選濃厚と私たち報道側が見ていた自民党現職議員の選挙事務所を訪ねた。秘書さんが「出口調査は何時ごろやったの?」と聞いてきたので、確か「昼前後です」とか何とか答えた。

 すると秘書さんは大笑いするのだ。

「うちの支持者はみんな高齢者だから朝一番に投票に行ってるんだ」

 そういえば議員は当時80歳だかの高齢だった。

 秘書さんの予言通り、高齢批判をはね返して鈴木議員が当選した。高齢批判に高齢者が反撃したと言える。当たり前だが、昼ごろの出口調査に高齢者のデータは全く反映されていなかった。私が調査対象と結果の関係を明確に自覚したのはこの時である。

 さてビッグデータである。書き込んでいる人の中で実際に投票所に行くのは何割だろう。

 ビッグデータが米国の大統領選で活用されたことを根拠に日本でも有効活用できるという趣旨のことを、それで利益を上げる関係者が言っているのだろうが、米大統領選のあの盛り上がりがない日本でビッグデータを信仰するのはほどほどにするほうがいい。

【補足】
 畏友稲垣の指摘で、私の文章の結論に欠陥があると気づいたので慌てて補足しておこう。

 早い話、ビッグデータビッグデータと大騒ぎしても、例えば私の両親(昭和10年生まれと14年生まれ)は徹底したアナログ人間なので、ビッグデータに情報はほとんどない、ということである。しかし、投票にはきっちり出かける世代だ。この世代の情報が大きく欠けているビッグデータを選挙で使う場合は、支持者の層と照らし合わせて有用性を検討する必要がある。そうしないと、参院選福島選挙区で私たち報道側が予測を誤った過程と同じことを繰り返す。