『恋愛指南』(オウィディウス・岩波文庫)の第1刷は2008年と日が浅いが、原本が書かれたのは2000年前である。男尊女卑の視点や女性への人権のなさなど、今読むと無茶苦茶な記述が多々あるところは到底肯んじることはできない。しかし、女性の上腕部について<これを眼にすると、私はむき出しになっている肩のどこにでも接吻したくなるのだ>などと自分をあらわにしている辺りは「おぬしやるのう」と拍手を送ろう。くそ真面目なアウグストゥスの時代にこんな放埒な本を書いた男は信用できる。

 信用できる男が書いた本ではあるものの、軟派な題名に引かれて読み出さないほうがいい。ギリシャ神話を縦横無尽に引用して恋愛の幅広さや技術を語る本書は、それなりに覚悟を決めて対面しないと2ページ目辺りで挫折するに違いない。

 それにしても男と女の関係は2000年前からほとんど何も変わっていないことがよく分かる。「女はお金についてくる」とか言ってひんしゅくを買ったホリエモンより2000年も前にオウィディウスが<金持ちだというだけで、異国の蛮人でさえも(女たちに)好かれるのだ>と喝破していた。

 第3章は女性向けのアドバイスである。私が大賛成したのは<伊達男ぶりと美貌に得々としている男や、髪をきちんとなでつけているような男は避けることだ>(121ページ)で始まる段落だ。隙のない外見に固執するのは詐欺師と相場は決まっている。