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 軍縮問題を扱う国連総会第1委員会は2日、日本が提出した核兵器廃絶決議を賛成多数で採択した。一方、オーストリアが提出した核兵器の禁止や廃絶に向けた法的枠組みへの努力を誓う決議は128カ国の賛成で採択されたが、被爆国であるにもかかわらず米国の「核の傘下」にある日本は棄権した。こんな日本は諸外国から理解されるだろうか。

 ちょうど『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか』(藤原章生・新潮社)を読み終わったところだっただけに、上記の報道と本書の主人公・森一久さんが重なった。森さんは広島で被爆し、家族を失った。湯川秀樹博士が広島に原爆が投下されることをあらかじめ知っていたのではないかとのちに森さんは疑問を抱き、調べ始める。その遺志を継いで丹念に調べ、刻んだのが著者の藤原さんである。

 読み進めると、著者と一緒になって事実を調べていくような感覚に包まれる。

 昨夏の広島で初対面の私に被ばく体験を淡々と話してくれた男性がいる。同席していた配偶者は「私も初めて聞く」と驚いていた。この男性はいくつもの疑問とかなしみを抱えていた。「たくさんの折り鶴を保存して意味があるのか」や「跡形もなく消えた私の姉に比べると、12歳で亡くなった佐々木禎子さんはまだいいのではないか」、「平和記念式典に首相が来る意味があるのか」……。

 被ばくして文字通り地獄を見た人たちの深淵をどう伝えていくのか。その答えの1つが本書である。