私が愛してやまない広島市宝町のてらにし珈琲店はパンもコーヒーミルクもサラダドレッシングも手作りである。

 その理由をカウンター越しにマスター寺西さんが教えてくれた。

「ミルクによってコーヒーの味が変わってしまうんですよ。だから、うちのコーヒーに合うミルクを作るんです」

 優先順位だの、選択と集中だの、いかに手を抜くかだの、そういう一見かっこよさそうなことを「合理化」や「効率」と呼ぶ時代の流れに抗うかのような手間のかけ方ではないか。驚いている私の顔を見ながら寺西さんは笑いながらこう言う。

「これが仕事ですから」

 これが仕事ですから――。言うのはたやすい。しかし、細部にわたって徹底する人はどれほどいるだろうか。

 月にわずか2回だが、てらにし珈琲店で寺西さんが作ったモーニングを食べることができる私はしあわせである。