小山薫堂さんの著書『ライカと歩く京都』にサインをもらったあと、私はこう言った。「このご著書の23ページが特によかったです。思わず赤線を引きました」

 どれどれと小山さんはページを繰る。隣にいるライカジャパンの男性がのぞき込む。

 あ、まずいかも(汗)。失礼な状況をつくってしまうことに気づいたが時すでに遅し。それに、私は筆者の思いを聞きたいし。

 私が赤線を引いたのは<カメラが問題なんじゃない。やっぱり、どんな瞬間を切り取れるかだ>という部分である。それは別にいいし、真理だと確信するのだが、この場がライカジャパンの主催で小山さんがライカについて語った直後でライカジャパンの人が隣にいるという状況はよくなかったかもしれない。

 小山さんは賢明だった。「あーあーあーあー」とだけ言った。

 ターザンではない。

 私なら率直に「いや、実際そうなんですよねー」とか何とか言ってしまいそうだが、小山さんはそういう余計なことを言わなかった。代わりに「あーあーあーあー」と音を発した。

 私の場合余計なひと言ふた言を発してしまうことがある。聞かれたことにはまっすぐ答えるという点で私のほうがよほど実直だと主張したいのだが、あとの祭りで、えらやっちゃえらやっちゃヨイヨイヨイヨイが何度あったことか。口は災いの元なのである。

 小山さんを見習おう。あーあーあーあー。これでいい。誰も傷つけないところがいい。