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 あの藤田修一師から写真集『浅草慕情』を送っていただいた。かつて駿台予備学校の現代文講師として独自の読解法を編み出し、受験生から絶大な支持を得た人である。三つ揃えのスーツにロマンスグレーの頭部、銀ぶちのメガネ、官能的な声。男から見てもかっこいい先生だった。

 何度も書いていることだが、高校3年の時の夏期講習で藤田先生と関谷浩先生の「早大国語」を受講し、どうにもこうにも伸び悩んでいた現代文が秋以降に一気に開花した。早稲田大学法学部のあのややこしい現代文を解く私に藤田先生が乗り移ってくださった。藤田先生の読解法は今日まで受験現代文の世界で受け継がれている。

 その藤田先生が自由の身になって取り組んだのが写真だった。国際写真サロン入選やキヤノンコンテスト準グランプリなど、写真家としての名声をすでに確立している。写真集はこれで3冊目だ。どれも被写体に真正面から向き合い、美のはかなさや壊れやすさをいとおしむかのようにシャッターを切り続けた。

 浅草を舞台にしたのは「異郷」だからという。異郷ゆえに檀一雄の『火宅の人』や永井荷風の『すみだ川』、川端康成の『浅草紅団』などが生まれたという。肖像権を主張しない人が多いのも異郷だからだろうという。

 異郷浅草の何を撮るか、異郷浅草の人間をどう撮るかといった藤田先生の目線を語った文章も、人間の一瞬を永遠に捉えた写真の数々も、人間の味わい方とでも言うべきものを教えてくれる。

 藤田師の3冊の写真集から吸収することがたくさんある。というわけで、私は藤田師の教え子を今も自称する。