
永六輔さん作詞の「上を向いて歩こう 涙がこぼれないように」は中村メイコさんへの失恋が生んだという特報が7月19日付『毎日新聞』夕刊(東京本社版)2面に出た。
仲よしの中村メイコさんが「高津善行さんと婚約する」と伝えたら、永さんは<ポロポロべそをか>いたという。メイコさんから相談を受けた父親は「上を向いて帰りなさい。涙がこぼれないように、とでも言うんですな」とアドバイスし、メイコさんは永さんにそのまま伝えたというのだ。
いい話だなぁ。
従来この歌詞は60年安保挫折の歌だと言われてきただけに、これは特ダネだろう。
こういう話は少なくないのではないか。例えば康成もそうだった(川端康成への親近感から私は「康成」と呼んでいる)。「非常」の伊藤初代さんとの別れが昇華されて『伊豆の踊子』が生まれたのだから、何がよくて何がよくないか分からない。康成が初代さんと結婚していたら『伊豆の踊子』は果たして生まれたかどうか。
谷崎潤一郎はいい女が創作欲をかきたてた。森鴎外は『舞姫』辺りか。芸術家の影に女あり、なのである。女が芸術家の創作欲を刺激するのである。

偉大な芸術家と並ぶつもりは全然ないけれど、広島・宇品でこんな店名(上の写真参照)の喫茶店を見つけてつい入ってしまうワタシである。でもって、店のおばちゃんに「高校時代に初めて付き合った女の子のあだ名が『りんごちゃん』で、かわいい子だったんですよ。それでこの店に興味を持ちました」などと、聞かれていないのに語ってしまうのだった。
私見だが、男の場合振るよりフラれるほうが絶対にいい。なぜならフラれたら相手を美化するからだ。スタンダール先生ではないが、絶望の失恋が相手への思いを結晶化して名作になる。
そういえばワタシがりんごちゃんにフラれた日は帰宅するなり寝込んだ。ゼツボーしたのである。自慢するわけではないが、彼女は同じクラスのほかの男に走ったのだからワタシのゼツボーは深かった。かわいそうなワシ。
ということはワシは名作を生み出すのかもしれない。「りんごかわいや かわいやりんご」という歌詞が今ひらめいたが、誰かに先に書かれたっけ?