若くてかわいい女の子が席を立って「どうぞ」と言う。え? このワシに? 

「勇気をふるって立ってくれた気持ちを無駄にしてはいけない」「いや、しかし、ワシはまだ53歳やで」「そんなに老けて見えたのか?」「この女の子にはワシはじじいに見えるんか?」「座るほうがええのか?」「いや、いくら何でも」「この子に恥をかかせたくない」「でもワシは年寄りちゃうがな」「ショックやわぁ〜」――。ほんの数秒めまぐるしく頭が回り、丁寧に「ありがとう」とお礼を述べて、席に戻ってもらった。

 JR広島駅に向かう広島電鉄の中での話である。確かに私は背中にリュックを背負い、重いスーツケースをえっこらよっこらと持って乗り込み、息も絶え絶えだったかもしれない。老けて見えたのかもしれない。でもなー。

 座った女の子の横顔を見る。中学3年か高校1年くらいだろう。かわいくて、理知的な顔立ち。ワシとは40歳近く差があるだろう。結婚相手には無理があるなぁ(と真面目に考えている)。

 しかし、気を配ってさっと席を立つ優しいこの子と縁が切れるのは大変もったいない。かといって40歳の年の差で結婚したらこの子がかわいそうだ。

 あ、そうか。長男の配偶者にいいかもしれない。「お嬢さん、ワシの長男を紹介したいけん、連絡先教えて」と誘うか。私は足フェチではないが、これは谷崎潤一郎風の展開だな。

 などと考えているうちに彼女は立ち上がり、降りてゆく。「ありがとう」と再び声をかけたら「あ、え、あ」。

 純朴だなぁ。この子の配偶者になる男はしあわせ者である。