舞台は東京の根津千駄木である。車谷長吉さんの『人生の四苦八苦』(新書館)収録の「わたしの散歩道」を散歩してみた。

 まずは団子坂。江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』が有名だが、車谷長吉さんの散歩はこの坂道から始まる。

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 藪下通りに入ると森鷗外の旧宅「観潮楼」がある。この藪下通りは永井荷風も大好きだったそうで、当時の面影は恐らくほとんどないけれど、そうかここを荷風が、そして車谷長吉さんが歩いたかと思いながら私は一歩一歩踏みしめながら歩く。

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 おばけ階段をのぼる。車谷長吉さんは<立ち止まって向こうの風景を見るのが大好き>だったそうだが、残念ながらマンションなどが建ってしまって見通しが悪い。

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 根津神社にある「夏目漱石さんの石」をほとんどの人が知らないようだ。誰も見向きもしない。説明板がないから仕方ない。漱石が散歩の途中に座って物思いに耽ったそうで、車谷長吉さんも散歩のたびに座ったという。もちろん私も真似して腰を下ろしたが長居できなかった。

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 この石、よく見ると小さな虫がウヨウヨいるのだ。

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 漱石旧居跡は日本医科大医学部校舎の近くにある。車谷長吉さんは<坂なので眺めも良い>と書いたが、うーん、この説明板のところからの眺めは絶望的である。

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 車谷長吉さんが買ってベンチに座って食べていたという柳屋を探した。残念ながら「柳屋」はなく、「根津のたいやき」という名前の店がある。ここが「柳屋」を継いだようだが、名前が変わると連続性が途切れる。ベンチもないし。しかし長蛇の列を成しており、とりあえず買って食べた。皮が薄くてサクサク、あんこがもっちりもちもち。ドナルド・キーンさんも食べたようだ。

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 さて。最後のお楽しみと期待していたのが千駄木倶楽部という喫茶店。車谷長吉さんは散歩の最後に立ち寄ってお茶を飲んだという。建物は残っているが、これまた残念なことにイタリア料理の店になっていて、気軽にお茶をする店ではなくなっている。がっくり。

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 車谷長吉さんが亡くなって3年。人が生まれようが亡くなろうがお構いなしに街は変わってゆくのだなぁ。