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 横浜・寿町に住む人たちを至近距離で撮影した写真集である。土門拳賞受賞後に出た新刊だ。

 私が知る限りでは寿町の人たちの顔を撮った写真集としては鷲尾倫夫さんがずば抜けて迫力がある。しかし、生活ににじり寄った写真集は梁丞佑さんのこの『人』だろう。

 カメラを持たずに3カ月通い詰め、声をかけられるまで道端に座って酒を飲んだりして過ごしたという。2002年に撮り始め、2017年まで撮った写真から構成したそうだから、15年もかけたことになる。そこまで長期間追いかけたのは人間のナマの姿が目の前に生々しくあったからだろう。あの長倉洋海さんもドヤ街を撮影していたが、ここまで迫った写真はなかったのではないか。

 人間が持つ優しさも弱さも憤怒も暴力性も矜持も諦念も、丹念に焼き付けたモノクロ写真から迫り来る。人が見ようとしない人間を梁さんは静かに観察して一枚一枚に収めた。私が小学6年のころだったか、父に連れられて歩いた大阪あいりん地区の空気を思い出す。

 寿町はずいぶん“きれい”になったと聞く。東京の山谷を先日歩いた時も違和感がさほどなかったから、ドヤ街はどんどん“美化”されているようだ。もっともっと“美化”が進むのだろう。

 ザラザラした空気がよどむ荒涼とした寿町があり、そこで人々が生きていたという貴重な記録でもある。梁さんでなければ撮れなかった。