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 人でも花でもよく見てみろ、細部が見えてくるから――という趣旨のことを語ったのは小林秀雄だった。私の高校時代、模擬試験に頻出の難解な文章を書く爺様だったが、今振り返ると案外いいことを言っていた。

 というわけで、私が今秋よく見たのがキンモクセイである。トイレの芳香剤と言う人もいるけれど、私には青春時代の甘酸っぱい記憶が蘇る。高校時代につき合っていた女性の1人が手紙に添えていたのがキンモクセイで、以来キンモクセイの香りをかぐたびに彼女を思い出す。パブロフの犬である。

 彼女は今どう過ごしているだろう。元気だろうか。などと振り返ってくんくんニオイを嗅ぐのは男の阿呆な性で、当の女性は後ろ足で砂をかぶせて立ち去り、過去の男など思い出しもしない。「男の恋愛は犬の小便、女の恋愛は猫の小便」と言われるゆえんであるな。

 というわけで、私は砂まみれである。いったいこれまでに何百人の美女に砂をかけられたことか。と盛ってみる。