特段の理由はないが時代劇や時代小説に興味がない。今日読み終えた『赤ひげ診療譚』(山本周五郎・新潮文庫)が初めてのはずだ。文庫は1964(昭和39)年の発行で、私が買ったのは2017(平成29)年の105刷。もはや古典と言っていいだろう。アマゾンのレビューで高く評価されていて、読みながら納得した。山本周五郎ポピュリスト説があるようだが、そう見ることもできるし、林真理子のようなツボを押さえたストーリーテーラーと同じとも見ることができて、まぁどっちでもよろし。私は2回ほどウルッとなった。山本周五郎は生活の底辺を知っているのだ。

 流れる通奏低音は米テレビドラマ『ER』と同じ、金儲けに走らない医者の話である。

 実は『ER』のシーズン1の第1話が医者とカネをテーマにした内容だった。グリーン先生は楽な仕事で休みもあって賃金も多い医療機関に誘われたのに全く興味を示さず、急患に追われて満足に寝ることもできず賃金が低い州立病院の救命救急現場に戻っていく話で、これはシーズン15まで続くことになる『ER』が最初の最初に「カネ儲けの医者の物語ではない」と高らかに宣言したのである。何シーズンの何話か忘れたがジョージ・クルーニー演じるダグ先生もゆとりがあって高収入の病院への誘いを断る。

 資本主義の権化のような米国だから新鮮に映ったのかもしれないが、「医とカネ」を見る私たち市民の期待は変わらないということではないか。『赤ひげ診療譚』にせよ『ER』にせよ大勢の支持を集めた背景には、ちりひとつない職場で楽してカネを稼ごうという医者への厳しい批判が含まれている。