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 あきる野市を訪ねた際、明治初期に建設された洋風建築で知られるここに来た。喫茶室でコーヒーを飲んだ後、あるじが声をかけてくれて、別の建物に招き入れられた。

 暖炉で火が燃え、吹き抜けの建物全体が暖かい。時間の流れを忘れるぜいたくな空間である。「木こり」だというあるじの話に聞き入った。

 雨が降ったら仕事は休みになるからここで考える。雪が降ってもここで考える。会社員は電車に乗って会社に行けば安定した収入になるからいいね。花粉が大量に降る場所だが、私はくしゃみひとつしない。自然から離れることで人間はかえって弱くなったのではないか――。

 自然の中での晴耕雨読。木こりというより学者然とした風貌のあるじに私は言う。「人間には精神の踊り場が必要です」。身を乗り出してきた。「ここにはそれがあるように感じます」

 資本主義に抗うつもりなど毛頭ないが、その社会の中で精神がまいったら廃人になるか死人になるかしかないではないか。踊り場は必要なのである。自然の中でたくましく力仕事をして生きるのは私のような虚弱体質人間には無理かもしれない。木こりのあるじが羨ましく見えた。