ラップ音に負けるものかと奮闘しつつも、実は怖くて血が逆流するような広島の夜。寝る前に室内で塩をまくことにした。島津社長のアドバイスをすぐに取り入れたのである。

 塩をつかんで、まずはドアの方にまく。何か呪文を唱えるほうが格好がつくように思ったので、しかしこういう場合にどんな呪文を唱えればいいのか分からないから、「アブラカタブラ」ととりあえず言ってみた。

 次はドアの反対側を向いて塩をまきながら「はっぱふみふみー」。お前は大橋巨泉かと突っ込まれそうだが、呪文が思いつかないのだから仕方ない。黙ってまくよりはよかろう。

 あとは残りの2方向に塩をまきながら「だっふんだーだっふんだー。あいーんがちょーんうんたまぎるー」。どこかで聞いた言葉を即席でつないで呪文として活用した。

 私は真剣なのだが、第三者が私を見ていればさぞかし滑稽だったことだろう。世の中そういうもんである。

 念には念を入れ、深く眠るためにドリエルを飲んだ。それなのに目が覚めてしまう。午前4時前。聞き耳を立てるとろくなことはないのだが、レーダーのようにそばだてる。少しすると、ピンカシャコントンと立て続けに音が鳴る。

 やっぱり来たか。電気は全てつけてあるのでとりあえずトイレに行く。この間全く音は聞こえない。ベッドに潜るとまたまたコンピンコトカン。凍り付く。しかし、息を大きく吸ったり吐いたりして熟睡したように見せかける。数分でラップ音は止まり、私は熟睡した。

 今月の勝負は引き分けか。今月の“相手”は短時間で引き上げたからだ。守り本尊とご浄塩を枕元に置いただけでなく、塩をまいたし、怖がっていない振りをしたし、総合力で相手の出番を減らすことができたように感じる。と自慢するのも何だが。

 掃除の人は首をかしげるかも知れない。「何で塩がこんなにあちこちに?」と。