右のメディアに好かれている元朝日新聞記者の永栄潔さん。著書が新潮文庫に入ったので読んでみた。

 文庫の帯には「型破りな新聞記者」とあるけれど、それは違う。「徹底して行動の自由を守ろうとした新聞記者」が妥当である。「会長の家なんかに行ったら出入り禁止」と広報部次長に言われたためわざわざ三菱商事会長宅を訪ねてインターホンを押し、「もうお休みです」との返事に対して「よろしくお伝えください」と伝言した。3回も通ったという。そのあと商事で会長と面会することになり、名刺を差し出しながら「大豪邸ですね」などと言って、通ったことを敢えて伝える。会長は激怒し、「出ていけ」と怒鳴る――。この話が永栄さんの姿勢を最も物語るものだ。

 小田実の文章も頭もめちゃくちゃである話や石原慎太郎の傲岸不遜な話、ソニー盛田夫人が剣幕だった話、瀬島龍三の怪しげな動きの話だけなら朝日新聞社外の人間模様だが、社内の人間を同じようにばっさり斬る。しかしその斬り方があっさりしているのでイヤミがない。

 常務以上でないと会わないと言った朝日経済部長やリクルート事件を「ただの経済行為」と言った経済部長(のちに社長)、『週刊朝日』編集長宅に早朝電話してきて「首にしてやる」と叫んだ元香港特派員、社論に反する読者投稿に怒ってゲラから削除した局次長、あの船橋洋一さんの“人格”を明かした辺りは確信犯だな。のちに『週刊金曜日』の社長をやると紹介されなぜかその後一度も姿を見せなかった秦正流さんは朝日の役員時代、今で言えばパワハラか権力を笠に着て報復人事をしたとしか読めない。朝日新聞社内に言論の自由が保障されていないこともよーく分かった(笑い)。朝日新聞社の中国べったりの内実を垣間見せたのも本書の功績だろう。

 富山支局時代、救急隊員の服装をして素知らぬ顔で救急車に乗っていたり、警察の取調室のロッカーに身を潜めて容疑者の供述を聞いたり、やくざ数人相手に大立ち回りを演じて全員ノックアウトしたりしたという「後年、毎日新聞首脳として活躍するKさん」は誰だろう。

 時計を遡らせることはできないけれど、願わくば私が福島支局に行く1989(平成元)年春までに本書を読みたかった。そうすれば私の行動は多少は変わっただろうなぁ。ちょっと残念。こういう話を入社時の研修で披露すれば意義のある研修になるのに。