パラダイムシフトという言葉をたまに聞く。その原点が本書の筆者トーマス・クーンで、定義を知らずに使ったら失笑を買う。こんな本が、と無知な私は驚くのである。1971年の第1刷から始まって今年2月に41刷を迎えていたことに。

『銃・病原菌・鉄』の科学史版とでも言うべきか。私は常々「タコを最初に食った人類はエラい」とか「毒キノコと知らずに食べて命を落とした人類の犠牲の積み重ねがこんにちのキノコの分類に役立っているはずだ」とか思ってきたので、ほんの少しだが科学のあり方やその進歩を感じることができた、か。パラダイムの定義をあてはめてみると、近藤誠の「がんと戦うな」はまだその過程に位置することになる、ような。

 訳者あとがきが味わい深い。著者クーンは訳者の旧師だったと明かす。最初の科学史専攻の学生だったであろう訳者に対して当時若い助教授だったクーンは風当たりが強く、訳者は徹底的に鍛えられたと述懐する。

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 彼の「近代科学発展ゼミ」で、二、三日徹夜して初めて発表したあとで、「非常に失望した」と講評された時は、足許の土地が崩れてゆくような思いがした。しかし(略)英語のノートが取れないで困っていたとき、講義用ノートを貸してくれたのも彼であった。
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 印象に残ったのはここである。

 クーンなんてカタカナを見たら子犬の鳴き声を想像してしまう私はわれながら阿呆と言うほかなく、この6月の課題図書を何とか読み終えたときオノレの阿呆ぶりに絶望して倒れそうになった。倒れんけど。