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 影を上手に使った店内の様子に「谷崎潤一郎ふうの影ですね」と伝えたら、マスターが「陰翳礼賛ですね」と応じ、それならこれも返してくるだろうと期待して「この辺に車谷長吉さんが住んでいたそうですよ」と投げかけたら「数冊読みました」と答えてきた。おお。やるなぁ。

 カウンター席だけの小さな店である。奥に畳の間が見える。そこでは浴衣姿の20歳くらいの女性――黒髪で透き通るような白い肌、細面、身長は155センチくらいと小柄で華奢、切れ長の目、麗しい顔――が包丁で切り刻まれていて、その目は虚空を見つめている……などと想像の翼が広がる雰囲気の店なのである。

 店内の小物や美術品はマスターが趣味で集めてきたものばかり。脳内が展示されている。

 マスターは私に比べたらまだまだ若い。2回目の喫茶店経営。「喫茶店なんかやるもんじゃありませんよ」と黒く笑わせる。それではと私も黒い冗談をギリギリの角度で投げてみたら影のあるマスターのツボにはまったのか大笑い。

 万人受けする店ではない。しかしはまる人ははまる(当たり前か)。そのぶん経営的には楽ではないだろう。というわけで、頼まれてもいないが宣伝したい。

 車谷長吉さんが運ばれた日本医科大病院とよく散策した根津神社の間の道路を上がっていく途中にある。向丘2−13−15。