<黒猫は頭がザクロのように割れて即死、肉の中から折れた骨が突き出ていた。あお向けに、歯を剥き出しにした三毛猫の方は、まだ生きていた。頭は同じように割れているのだが、尾はまだ動いている>

<「あなたはおズボンの前のジッパーを外して生きているような方なのね」>

 暗い挿話に、車谷長吉を想像させる主人公である。車谷さんの小説にいったい明るい挿話などあっただろうか。不吉な、呪わしい、気色悪い、そんな挿話しかないと断言できる。そこが車谷長吉さんの世界“感”なのである。容赦ない世界なのである。

 1987年の『文學界』5月号に『雨過ぎ』と題して発表。37歳。

 翌年、坂本忠雄『新潮』編集長の紹介で西武流通グループ広報室に嘱託として勤める。坂本忠雄さんは坂本龍一さんの父である。