私は顔がのび太なので癒やし系と勝手に油断してくれるのでシメシメとほくそ笑むのだが、瀬戸内寂聴さんはもっとひどい。ただでさえ御利益がありそうな坊主姿にあの柔和な顔。しかしだまされてはいけない。

『花芯』は寂聴さんの私小説に近い。

 私は車谷長吉さんにひれ伏しているが、車谷さんが近づけないくらいの冷徹さというか、感情が凍り付くようなものを持っているのが寂聴さんだ。あの柔和な顔からは想像できない孤立(独り立つ)の精神とでもいうべきか。すさまじい。

 寂聴さんの内側から皮膚を破って表面に出てきた厳冬があらゆるものを破壊しながら突き進む。それに触れたらこっちまで凍り付く。

 ほれぼれした場面の1つがこれ。

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「ね、かわいいでしょ」
「いいえ」

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 しびれた。

 予定調和や気づかい、和、場、忖度、付和雷同、長いものには巻かれろ、しがらみなどなど世の中に蔓延している空気と闘ってきた人なのだった。さらに言えば寂聴さんの文章は美しい。何度も舐めて舐めて舐め尽くしたくなる美しさがある。

 その昔『毎日新聞』夕刊用に電話で寂聴さんの取材をしたことがある。寂聴さんの大ファンに話したらたいそう羨ましがられたが、あの当時に読んでいれば質問が深くなっていたはずで(仮定法過去完了)、質問に阿呆ぶりが出てしまうのであったな。

 徳島市にある寂聴さんの記念館は実家から歩いて10分くらいの近さ。今度帰省したら行かなければ。