朝起きてすぐ、四つん這いになって右手を伸ばして物を取ろうとしたときに来た。腰が抜けそうな、腰に真空地帯が生じたような。蓮實重彦先生の『伯爵夫人』ではないが「ぷへーっ」と唸ってしまった。ぎっくり腰の前兆である。

 恐る恐る過ごしているが、乗り換えのために東京メトロ飯田橋駅を歩いていたら「ぷへーっ」と来て思わず左にあった柱にしがみついてしまった。しかしまだ転げ落ちていない。

 他人のぎっくり腰の話は何度も大笑いしてきた。友人稲垣は確かバイクに乗ろうとしたときに「ぷへーっ」となって動けなくなった。知人女性は寮で風呂上がりに立ったままパンツを履こうとして「ぷへーっ」に襲われ、パンツいっちょうの姿で運ばれた。どちらもオモロい。

 ネタになるので一度くらい私も「ぷへーっ」を体験してもいい。どんな場面でぎっくり腰になるのが楽しいか想像してみた。

 まず、人妻とラブホテルに行って、そこで私が「ぷへーっ」。配偶者が帰宅する前には何事もなかったように帰宅していなければならないその人妻は私を残してそそくさと帰るか、病院まで付き添うか。彼女は踏み絵を踏まされるわけで、私は「ぷへーっぷへーっ」とのたうち回りながら見物である。

 次は滅多に人が来ない公園の便所で大便をした直後のぎっくり腰。汚い床の上にひっくり返り、お尻を拭くこともズボンを上げることもでにないまま「ぷへーっ」。叫んで助けを求めるべきか、傷みが引くまで我慢すべきか、悩ましい。

 3つめは自宅の風呂場でのぎっくり腰。浴槽から出ることができずブクブクブクブクと溺れていけばいいなぁ。ゆえあって一人暮らしなので、こういう最期も乙である。