車谷長吉さんの小説は人間が生きる鬱屈を拡大鏡で見せてくれる。

 長嶋茂雄がしくじることを期待してラジオを聞いて自己嫌悪。安アパートであきらめきったように息を潜めて生きている人。哀れな企業戦士の日々。息子に死なれた貧相な身なりの母親。職場の後輩を連れて出張に行った先で女を与え「あいつはまだ童貞やったが。わしはええ功徳を施した」と得意顔で喋る俗物。

 小さな挿話なのだが、ひとつひとつの衝撃が大きいのは、自分の中にある何かと微かに触れあうせいかもしれない。

 2000年、『一冊の本』9月号に発表。