読み終えるのがもったいないと思う本だった。『言葉はこうして生き残った』(河野通和・ミシマ社)である。

 河野さんの文章を初めて読んだのは新潮社のメルマガ『考える人』だった。淡々とした文章の味わい深さは一体どこから来るのだろうと感じて、以来ファンになった。季刊誌『考える人』の休刊にあわせて河野さんは新潮社を離れ、メルマガで読むことができなくなった。

 そんな河野さんの約300本のメルマガの中から選りすぐった37本をまとめたのがこの本だ。河野さんが紹介した本はどれも魅力いっぱいなので(紹介の仕方も非常にうまい)、手を伸ばしたくなるから困る。私にはもうこれ以上読む時間がない。でもアマゾンで注文するだけはするかもしれない。例えば『日本語 語感の辞典』(岩波書店)や『感情表現辞典』(東京堂出版)、『S先生のこと』(新宿書房)と書き出すとキリがない。特に『五衰の人 三島由紀夫私記』(文春学芸ライブラリー)は読みたい。三島由紀夫に指名されてその場に近づき遺言を手にした徳岡孝夫さん。当時『サンデー毎日』デスクだったというから先輩なのである。

 野坂昭如の本は大学時代にほぼ全部読んだはずなので野坂昭如ファンと自任しているのだが、その野坂さんから原稿をもらうための攻防を明かした章は傑作だった。

 河野さんは1953年生まれ。東京大文学部ロシア語ロシア文学科を卒業して中央公論の編集者になって文化を紡いできた。効率だの経済合理性だの成長だの儲けだのが重視される昨今だが、人間の精神を紡ぐ文化を軽んじるとしっぺ返しを食らうと私は思う。

 この本を出したミシマ社はさすが。