埼玉に今もあると知って驚いた。その「愚者の園」を一度見学に行かなければ。

 親の代からの村外会員で、新潮社編集者時代には武者小路実篤を担当したという筆者だからこそ踏み込み、問いかけた。本書が出版された2017年11月よりも今の2020年5月のほうが問いかけは染みる。すなわち、ユートピアの賞味期限は切れたと言い切ってしまうことができるだろうか(153ページ)というのが前田さんの問いかけであり、問題意識である。
 
 続く154ページから157ページは熱い。前田さんの問題意識の前提が述べられていて、私はお目にかかったことはないが、声が聞こえてきそうだ。うんうんそうだそうだと私は頷きながら読み進む。

 この人がわが車谷長吉さんの担当編集者だったのだ。都落ちして関西で息を殺して生きていた車谷さんを探し出し、小説を書けと励まし続けた人なのだった。車谷さんの小説や随筆でたびたび弄(いじ)られてきた編集者の芯は車谷さんと同じだった。恐らくそれは『逝きし世の面影』の筆者で石牟礼道子さんの伴走者だった渡辺京二さんとも通じる。