DSC_3024

 ふと思い立って東京・世田谷区の住宅街にある喫茶店・世田谷邪宗門に行ってみた。何の予備知識もなく、ただ有名な喫茶店というだけで訪ねたのがよかった。

 暑いのでアイスクコーヒーを頼むと決めていたのだが、メニューの「森茉莉ティー」に目が行く。なぜに森茉莉さんの名前がここに?

 店のママさん(?)がすぐに話しかけてきた。

「その窓際の席は森茉莉さんがいつも座っていたんです」

 え? 森茉莉さんが来ていたんですか!

 ママさんは店内にあるいろいろな本や資料をテーブルに持って来てくれて、説明をしてくれる。この喫茶店をまるで自分の応接室のように朝から晩まで四六時中使っていたらしい。

 森茉莉さんといえば新潮文庫『日本文学100年の名作』収録の『贅沢貧乏』を私はかろうじて読んでいた。お父さん大好き娘であり、お父さんと同じように気高い生き方を貫いた。とりわけ(1冊しか読んでいないのに「とりわけ」もないものだがw)『贅沢貧乏』は新型コロナウィルス感染騒動のあとの生き方暮らし方を示唆する小説でもある。

 森茉莉さんの逸話を思い出しながら、そうか、ここに座っていたか、と想像する。秘めた恋の現場でもあったらしい。

 ママさんに『下北沢文士町文化地図』をもらい、森茉莉さんが住んでいたアパートを見に行く。世田谷邪宗門から歩いて10分もかからなかった。「倉運荘」の名前に似た4階建てか5階建てのマンションの表札を見つけた。ここだな。はるか前に建てかえたようだ。

 私がひれ伏す車谷長吉さんは鷗外の文体を真似することを決意したと書いているので、私と森茉莉さんが全く何の関係もないとは言えない。いや、言えるか(笑い)。

 ほかの邪宗門も行きたいのだが、この世田谷邪宗門にはまた来なければ。