大江健三郎さんと古井由吉さんによる6回にわたる別々の主題での対談を活字化した。「文学の淵」というのがいい。とりわけ「淵」がいい。『広辞苑第7版』によると、「淵」には《\遏沼・湖などの水が淀んで深い所。古今和歌集(雑)「きのふの―ぞけふは瀬になる」⇔瀬。浮かび上がることのできない境涯。「絶望の―に沈む」》という意味がある。いやぁ、いいなぁ。

 私が注目したのは嘉村礒多が章を超えて何カ所かに出てきたことだ。わが車谷長吉さんが絶賛した私小説家なので私も読んでいるが、苦しい。ただただ苦しい。車谷長吉さんの名作で私が大好きな『三笠山』も救いがまったくないけれど、だから「淵」なのであるな。

 JR山口駅の近くに生家が保存されているので、水俣に行く機会があれば途中下車しよう。ってほぼ嘉村礒多の感想で終わってしまった。