ノンフィクションと錯覚してしまう。実話を踏まえて戦中の林芙美子の恋愛を描いた小説なのだが読後感が切ない。

 既婚の林芙美子が愛した男は『毎日新聞』の記者だったらしい。毎日新聞社が部数日本一でブイブイ言わせていたころの話である。ほかにも『サンデー毎日』や『朝日』の記者らが登場したり、戦時中の毎日朝日の競争やペン部隊、日本軍の実相を垣間見ることができたりして、林芙美子入門としても破格の女性の物語としても興味深い。

 林芙美子というと肝っ玉母さんの風貌が浮かぶのだが、検索してみたところ若いころの魅力ある写真がネット上にいくつか載っていて、私の林芙美子像が変わった。

 かつて週刊誌で読んだような記憶があり、記憶の断片を手がかりに探してみたらこの本に突き当たった。本書を読んでみると記憶の断片と本書の内容は重なる。ところがだ。私の記憶では『サンデー毎日』編集部時代(1992年秋〜93年春)に編集部のどこかその辺に転がっていた週刊誌でぱらぱらと拾い読みしたはずなのだが、初出は『週刊新潮』2008(平成19)年12月11日号から翌年11月12日号だそうで、私の記憶と完全に食い違う。一体どこで手に取って読んだのか皆目分からない。

 拾い読みした記憶が今こうして本書にたどり着き、「林芙美子すごい!」に始まり、「『放浪記』を読まなければ」や「改稿されまくった今の『放浪記』はダメなんだな」、「林芙美子記念館に行ってみよう」、「林芙美子賞はそういう位置づけか」などと広がり続けている。どこかで1〜2回さらっと目を通した記憶からこういう展開になることがあるわけで、何でも少しでも読んでおくとマイナスになることはないのだな。

 まずは林芙美子記念館だ。