私が惹句を書くとこうなる。「尋常ならざる父親の血を粛清するために――」

 池澤夏樹さん個人編集の日本文学全集23『中上健次』(河出書房新社)を読んでいたおかげで、背景を熟知した上で代表作『岬』を読むことができた。

 これは中上健次にしか書くことができない世界である。大半の人が触れることができない世界に手を突っ込むことができた環境が中上健次を生んだ。

 親は子を、子は親を選んで生まれることができない。問題が生じるのは、親を選んで産まれることができない子供の側が大半だろう。親は生殺与奪の権を持つからだ。過酷な親を持つ子供が小説家になっている事例は少なくないのではないか。反対に過酷な子供を持つ親が小説家になってる事例は浮かばない。

 中上健次は自分の首を絞めるようにこの小説を書いたはずで、恐らく死ぬまで“父親の血”に苦しみ悶えた。

 こういう小説をアホボンの私が20代で読んでも到底理解できなかった。中上健次が好きだと語った芥川賞受賞の慶應大生・宇佐美りんさんはすごいぞ。