IMG_4404
 東京・笹塚の十号通り商店街で昼飯を食べて店を出たところで、声をかけられた。
「落としましたよ」

 店を出たところに本が落ちている(上の写真のように落ちていた)。あれ? 店を出るときに左肘で挟んでいた私の本である。

 取ろうとしたら、さっと手を伸ばして拾い、私に渡してくれるではないか。

「あ、ありがとうございます」

 深い感動に包まれながら、万感の思いを込めて感謝の言葉をフルオーケストラの声で伝えた。

 清楚で美しい、若い人であった。目元が涼しい。軽く会釈して駅に向かうその人の後ろ姿を呆然と見送った私の手元の本をあらためて見ると『谷崎潤一郎 性慾と文学』。

 げげげ。この本の題名を見られたかもしれない。汗が噴き出す。

「いや、違うんです。誤解です。ひーん」

 叫んで追いかけそうになった。何が違うのか、何が誤解なのか、ワタシにも分からない。