もともとあの渡辺京二さんが編集し、あの葦書房で出版された本だ。ほんの少し前までは古本で買うしかなく、しかし価格が高騰していて、さすがに手を出せなかった。それが昨年末に文庫本として復刊された。河出書房新社に拍手である。名著の復刊は出版社として大事な仕事の1つである。

 緒方さんは漁師である。水俣病で狂死した父親の敵討ちとして始めた水俣病闘争から降りる目線は、魚をはじめとする人間の“食べ物”たる生き物に対しても優しく降り注ぐ。

 私の福島時代に取材で大変お世話になった小野賢二さんが重なる。小野さんは南京虐殺に関わった会津六十五連隊の元兵士を訪ね歩き、いくつもの日記を掘り起こした人である。一級資料として本になっている。その小野さんは常々「私があの時代に兵隊であの場所にいたら同じことをしていた」と語っていた。

 一人ひとりの人間を奪う仕組みは形を変えて今も随所にある。アイヒマンはいたるところで生まれているに違いない。

 本書ではいろいろな問題の提起があり、そのどれも深く深く頷く。本当にいい本だ。名著の復刊を深く喜ぶ。