寂聴さんが文学に関する考え方を記した随筆を読みたくて、思い切って買ったのがこの19巻だ。この本とコーヒーのおかげで2022年の正月三が日は三昧だった。しあわせとはこういう環境を言うのだろう。コーヒーを啜る音とページを繰る音しか聞こえない空間ほど、しみじみと極楽を感じるところはない。

 寂聴さんの文学観は、やはりというべきか車谷長吉さんや山崎豊子さんのそれとほとんど同じで、峻烈だった。昨年12月15日付『毎日新聞』朝刊「仲畑流万能川柳」に載った《寂聴さん笑顔の下のマグマかな》(鶴岡 ゆう坊)は言い得て妙である。

 交流のあった芸術家らの横顔を書いた随筆は、「そんなことを書いていいのか」と私がためらってしまうような言及を随所でやってのけている。本人にとってはごく普通の描写なのかもしれないが、書かれた人は火傷を負うのではないか。寂聴さんの《マグマ》のなせる業(ごう)だろう。だから面白いのだが、マグマに襲われる人は大変かも知れない。

 この機会に全集を読み切りたいのだが、そんなことをしているとほかの小説家の作品を読む時間が減る。おぼろげに残り時間が見えてきた今、いくら興味があると言ってもさすがに25巻全部、つまり残りの24冊を読むのはちょっとなぁ(笑い)。