
瀬戸内寂聴さんは年齢を重ねるごとに魅力を増した。若いころは苛烈な顔をしていたが、90代以降の表情、とりわけ笑顔が実にかわいい。映画『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』を見ながら、寂聴さんの変化をそんなふうに捉えた。
この映画の監督は、2016年1月にNHKで放送された『瀬戸内寂聴 いのちよみがえるとき』を制作した中村裕さんである。
寂聴さんは中村さんを気にかけている。寂聴さんは駄目な男が好みだと何かに書いていた。そういう男を寂聴さんが支えて、愛を感じるのかもしれない。表面的な男女平等ではないところに寂聴さんの凄みと説得力があるのだが、お金や名誉の欲を感じさせなかった中村さんに寂聴さんが惹かれたのはそういうことだろう。
私がこころ動かされた場面は、かつての夫の墓参りで語った寂聴さんの本心である。寂聴さんの小説家としての核心はここにある。
寂聴さんは映画の中でよく牛肉を食べていた。いや、牛肉に限らない。健啖家なのである。だから長生きしたのか、長生きするほどの体力があったからよく食べたのか、因果関係は分からないが、映画を見終えた私は急に牛肉を食べたくなった。
ふだん晩飯は納豆以外ほとんど食べないのだが、今夜は例外である。映画館の近くのペッパーランチで200グラムの肉をフンパツした。
食べながら思った。寂聴さんが食べていた肉と私の目の前の肉は全然違う(笑い)。