
石原慎太郎さんの死去(2月1日)の前、1月29日に編集者が亡くなっていた。新潮社の坂本忠雄さんである。編集者の死去が新聞で報じられることは珍しい。
訃報を伝える2月9日付朝刊各紙によると、1981年から95年まで『新潮』編集長を務めた。川端康成や小林秀雄、石原慎太郎らを担当した。
私は数年前に評判を聞いて『文学の器』(扶桑社)を古本で手に入れ、少しずつ少しずつ読み進み、つい最近読み終えたところだったので、訃報を知って腰を抜かしそうになった。瀬戸内寂聴さんに始まり、石原慎太郎さん、西村賢太さんと来て、坂本忠雄さんである。私が仰ぎ見る人たちがこうも相次いで亡くなると、人を仰ぎ見ないほうがいいのではないかとジンクスを考えてしまう。逆に、早く死んで欲しい人を仰ぎ見るか(笑い)。
この本は坂本さんがインタビュアーとして石原慎太郎や長部日出雄、吉井由吉、高樹のぶ子、車谷長吉、黒井千次ら蒼々たる小説家を迎え、読むべき文庫本について論じ合った希有の書評本と言うことができるだろう。扶桑社の季刊文芸誌『エンタクシー』に連載し、扶桑社が出版した。あの扶桑社がこんな優れた仕事をしていたことに敬意を表する。